御礼

昨日、無事シンポジウムを終えることができました。


ご講演いただいた演者の皆様、また来場していただいた多くの聴衆の皆様に心よりの感謝をいたします。

個人的にはシンポジウムの運営および企画における詰めの甘さにおいて大変反省するところも大なのですが、講演者の皆様には素晴らしい講演をしていただき、その点においては大変満足しております。

シンポジウムにおいて言及された様々なシーズが本会場にいらした方々の研究の今後の糧となり花開くことをお祈りしておりますし、そのために私もこれからも微力ながらも尽力していきたいと思います。


大変ありがとうございました
林岳彦
#また、ご来場いただいた方々にシンポのご感想などを、直接・間接・媒体等も問いませんので、何らかの形でご表明いただけましたら嬉しいです。ご批判も今後の糧として活かしていきたいと考えておりますので、何卒よろしくお願いいたします。

このサイトについて

このサイトは2010年生態学会企画シンポS06「生態リスクにどう向き合うのか?2:データ解析からリスク解析へ」の講演要旨等や関連情報をまとめたサイトです。

開催日時と場所は3月16日(火)9:00-12:00(J会場)となっております。何卒よろしくお願いいたします。

『良いモデル』の統計学小史:AICからデータ同化まで

上野玄太(統数研)


【文責:林岳彦(シンポ企画者)】
 「良いモデルとは何か?」という問いに一つの現実的な解を与えたのが赤池弘次による赤池情報量基準(AIC)である。一般に、パラメータの数を増やすほどモデルのデータへの適合度は上がるが、パラメータの数が多すぎると未来のデータに対する予測能力が落ちる。このとき、AICを指標とすることにより予測能力が最大となる(=AICが最小となる)モデルを最適なモデルとして選ぶことができる。

  おそらく多くの生態学者にとってはこの「AIC最小」というのが「良いモデルとは何か」という問に対する答えの一つとして浮かぶのではないかと考えられる。しかしながら、赤池自身はAICの評価について

「パラメータ数の増加に伴って現れる最尤法の弱点を解消するために登場したAICは、分布全体の構造を自由に変えられるベイズモデルの登場により、その役目の大半を終えたかの感がある。(中略)実はAICの歴史的な役割としては、その導入がベイズモデルの実用化に思想的な拠り所を提供したという事実の方が、より重要なものと考えられるのである」

としており、「良いモデル」への探求においてはその後に赤池自身が(また統計学の流れ全体としても)AICからベイズモデルへと主舞台を移したことについて述べている(以下樋口ら2007参照)。

 本講演では、生態学者にとっては見えにくいその「AIC以降の統計学の流れ」を統数研の上野玄太氏に解説いただく。さらに、その「良いモデル」を探求する実践における現在の最先端といえる手法である「データ同化」についての解説をいただく。「データ同化」は「モデルのパラメタリゼーション」と「モデルを用いたシミュレーションによる予測」を有機的に繋げる有力な手法であり、生態学/生態リスク学への応用についても、時系列観測データと生態学モデルを繋げたい場合に非常に有効な手法となる可能性が高いと考えられる。


関連図書

統計数理は隠された未来をあらわにする―ベイジアンモデリングによる実世界イノベーション

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赤池情報量規準AIC―モデリング・予測・知識発見

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不確実性がある中でどのように意志決定を行えばいいのか?:外来種管理を例に

横溝裕行(国環研)


 絶滅危惧種保全外来種や化学物質の管理には、様々な不確実性がつきまとう. 例えば外来種の駆除に関して意思決定を行う場合、外来種の生存率や繁殖力などの生態学的パラメータや、駆除の効果などの不確実性を考慮に入れる事が重要である. 不確実性を取り込んだシミュレーションモデルにより、いくつかの管理シナリオに対しての管理のパフォーマンス(根絶確率や分布面積の期待値など)を求める事が一つの最適な対策を求める方法である.

 最近、外来種管理や絶滅危惧種保全に関してInformation-Gap (Info-Gap)decision theoryという不確実性を扱う上で有用な手法が用いられるようになってきている. Info-Gap decision theoryとは、最も大きな不確実性の下で、最低これだけは満たしたいという管理の目標を達成できる対策を導きだす手法である. 本講演では、外来種管理や絶滅危惧種保全に関して、不確実性のある中での意思決定に関する数理モデルを紹介する. そしてInfo-Gapの概説を行い、商用植物の導入に関する意思決定を例にInfo-Gapの応用例を紹介する.

 園芸植物などの商業的に有用な植物が海外から意図的に持ち込まれている. しかし、その商用植物が野生化して、外来植物として生物多様性などに様々な負の影響を与えるリスクがある. 商用植物が拡散しないために封じ込め(containment)を行う事が管理手段の一つとして考えられている.野生化した場合に与える負の影響の大きさや、封じ込めの効果などに関する情報に不確実性がある中でも、導入に関して政策決定を行わなくてはいけない.現在、オーストラリアなどでは商用植物の導入に関してAustralian Weed Risk Assessment modelが用いられているが、商業植物の経済的な価値や、封じ込めのコストや効果は考慮されていない. 本研究ではこれらを考慮に入れ、純利益を最大化する意思決定とInfo-Gapによる不確実性に頑健な意思決定を求めた. これらにより商用植物の導入の条件を明確化した.


横溝裕行のWebsite
http://www.nies.go.jp/risk/members/yokomizo/yokomizo.html


関連図書

Info-Gap Decision Theory, Second Edition: Decisions Under Severe Uncertainty

Info-Gap Decision Theory, Second Edition: Decisions Under Severe Uncertainty


Infomation-Gapを用いた絶滅危惧種保全や森林管理に関する研究
(1)Regan, H. M., Ben-Haim, Y., Langford, B., Wilson, W.G., Lundberg, P., Andelman, S.j., Burgman, M.A. (2005) Robust decision-making under severe uncertainty for conservation management. Ecological Applications 15:1471-1477.
(2)McCarthy, M. A., Lindenmayer, D. B. (2007) Info-gap decision theory for assessing the management of catchments for timber production and urban water supply. Environmental Management 39:553-562.


Australian Weed Risk Assessmentやそれに関する研究
(1)Pheloung, P.C., Williams P.A., Halloy, S.R. (1999) A weed risk assessment model for use as a biosecurity tool evaluating plant introductions. Journal of Environmental Management 57:239-251.
(2)Keller, R.P., Lodge,D.M., Finnoff, D.C. (2007) Risk assessment for invasive species produces net bioeconomic benefits. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 104, 203-207.
(3)Daehler, C.C., Denslow, J.S., Ansari, S. Kuo, H.C. (2004) A risk-assessment system for screening out invasive pest plants from Hawaii and other Pacific Islands. Conservation Biology 18, 360-368.
(4)Nishida, T., Yamashita, N., Asai, M., Kurokawa, S., Enomoto, T., Pheloung, P.C., Groves, R.H. (2009) Developing a pre-entry weed risk assessment system for use in Japan. Biological Invasions 11, 1319-1333.

空間明示型Harvest based modelによる外来生物リスク管理の評価 -奄美マングース防除事業への適用を例に-

深澤圭太(自然環境研), 阿部愼太郎(環境省那覇自然環境事務所)


外来生物による生物群集や景観の改変、および農林業被害に代表される人間社会との軋轢などの生態リスクは各地で深刻な問題となっており、根絶を目指した管理が多くの地域で行われている。しかしながら、外来生物の個体群動態を把握することは容易ではなく、情報不足によって適切なリスク管理が困難であることも多い。

 奄美大島においては、1970年代に放獣された外来哺乳類ジャワマングースが、アマミノクロウサギなどの固有種を含む在来動物群集に対する脅威となっており、根絶を目指した捕殺作業が2000年度より実施されている。捕獲によってマングースは減少傾向にあることが明らかになっているが、マングースの個体群動態についてはなお不明な点が多く、捕獲戦略の評価と改善に直結する情報は不足している。これまでの捕獲履歴についてはトラップの位置情報などの詳細なデータが蓄積されており、それらをいかに活用するかが課題となっている。

 そこで、本研究においては捕獲データとその背後にあるマングースの個体群動態の関係を階層ベイズモデルとして記述し、捕獲率、個体群の自然増加率、時空間で変動する個体数などの直接測定が困難なパラメータを推定するHarvest based modelを構築した。講演においては、ランダム効果による時空間的な不均一性の推定、観測できない生態プロセスの表現、複数のデータソースの統合というこのモデルの特性から、野生動物リスク管理における階層ベイズモデルの有効さについて考察する。その一方で、モデルの良さの評価の難しさなど、階層モデルの適用上の問題点についても議論したい。

最尤推定法の近似としてのベイズ法の活用:エゾシカ個体数の推定の場合

山村光司(農環研)


 ベイズ推定法の使用の適否に関しては現在でも議論が絶えない。対象とするパラメーターが反復生成可能なパラメーターであり,そこに事前分布が実際に存在する場合にはベイズ推定法に疑問をはさむ余地はないが,たとえば「東京が大阪の東にある確率」のように反復生成が不可能なパラメーターに対して事前分布を仮定する場合には問題が生じる。

 こうした事前分布の使用に対してR.A. Fisherは強く批判を行い,ベイズ推定法に代わるものとして最尤推定法を構築した。確率を主観確率としてとらえれば,ベイズ推定法の論理的問題は消えるが,客観性に基づく自然科学では主観確率を用いることができないため,ベイズ推定法の使用が妥当でない場面も多いであろう。しかし,そのような場合でも,ある条件を整えればベイズ推定法を活用することができる。

 最尤推定値は一様事前分布のもとでの事後分布のモードとほぼ同じであり,ベイズ推定値は一般に事後分布の平均値として計算されるから,一様事前分布を仮定したベイズ推定において,尤度曲線が正規分布に近ければベイズ推定値と最尤推定値はほぼ一致する。このため,ベイズ推定値を最尤推定値の近似として用いることができる。この場合にはAICなどを使ってモデル選択を行うことも可能である。ただし,パラメーターを適当に変数変換した上で事前分布として一様分布を仮定する方がよいであろう。

 野外の不確実性を組み込んでモデルを構築する場合には,最尤推定値を直接に求めるのが困難となる場合も多い。そこでYamamura et al. (2008; Popul. Ecol. 50: 131-144) では,エゾシカ個体数を推定する際にベイズ推定値を最尤推定値の近似として用いた。このような形でのベイズ推定法の活用は実際問題としては有効だと思われる。

モンテカルロシミュレーションを用いた農薬の生態リスク解析

永井孝志(農環研)


 現状、農薬の生態リスクに関わる規制としては、農薬取締法に基づいて、魚類、ミジンコ、緑藻の3つの水生生物に対する毒性試験結果と河川水中濃度の予測値との比較によってリスク評価が行われ、リスクが懸念される場合には登録が保留される仕組みとなっている。

 しかしこの評価スキームにおいて、濃度予測のシナリオは一つに限定され地域差などの不確実性は考慮されていない。また毒性評価においては、魚類と甲殻類に限り種間の感受性差による不確実性係数が適用されるが、その明確な根拠は示されてはいない。従ってより高度に生態リスクを評価するためには、毒性や曝露などの不確実なパラメータを一つに決定せずに分布として表現し、確率論的な評価を行うのが望ましいと考えられる。

 そこで我々の研究では、毒性については種の感受性分布の解析を行い、曝露については、濃度予測モデルのパラメータ(水田面積や河川流量、農薬の普及率など)の地域的なバラツキを考慮して、モンテカルロシミュレーションにより曝露濃度の確率分布を推定した。そして、毒性と曝露の分布の重なり具合から、生態リスクを「影響を受ける種の割合」として定量化した。さらに、様々な農薬のリスクを横並びで評価する場合、得られるデータの質・量が農薬によってバラバラであるので、そのようなデータが少ないことによる推定の不確実性についても定量化を行った。

 生態リスクを確率として定量化することで、「農薬の使用量を減らす」「農薬の流出防止対策をとる」「より低毒性の農薬に切り替える」などのリスク低減対策をとった場合の効果を予測できるようになり、より効率的にリスクを減らす管理対策を選択することが可能となる。


関連情報


リンク:

永井孝志のWebsite
http://shimana7.web.fc2.com/

EUFRAM: Probabilistic approaches for assessing environmental risks of pesticides
http://www.eufram.com/


論文:

永井孝志、稲生圭哉、堀尾剛 (2008) 不確実性を考慮した農薬の確率論的生態リスク評価水稲用除草剤シメトリンのケース
スタディー. 日本農薬学会誌, 33(4), 393-402
http://ci.nii.ac.jp/Detail/detail.do?LOCALID=ART0008900633&lang=ja


解説記事:

永井孝志 (2009) 農薬と生物多様性は共存できるのか? 〜リスクベースのアプローチはさらなる進化を必要とする〜. 「水田から流出する農薬の水系への影響」第9回有機化学物質研究会および第26回農薬環境動態研究会資料 (独)農業環境技術研究所編 pp71-79
http://shimana7.web.fc2.com/research/PDF/g3-2.pdf